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パーフェクト・ワールド・ハルⅧ-8
「最後の番人とも言われていたな、そう言えば。あいつに面と向かって逆らうヤツもあまりいなかった。まぁ、本尾だとか、そう言った一派を除いて、だが」
「……」
「そうしてある意味で今までの常識を押し込められていたお前たちの前に今度現れたのが、あの『ハルちゃん』だったわけだ」
そう言えば、篠原さんも似たようなことを言っていたなと思った。異分子。平穏を乱す一手。
「僕はオメガです。けれど仲良くしてください。襲わないでください」
それは、入学式の朝の宣誓だった。皓太たちの世界を揺るがした、少年の天使のような美貌。彼が――悪いわけでもないのだと思う。分かっている。ただ、でも、と思ってしまう。
「成瀬の主張と似ているようで、大きく違う」
茅野の声がゆっくりと身体に侵食していくように響く。彼がかつて挙げていた主張と、水城がほんの少し前、掲げた主張。
「成瀬の世界にはアルファもオメガもないが、水城の世界にはアルファとオメガしかいないんだ」
皓太を見据えたまま、茅野が小さく笑った。
「可哀そうだと思うよ、俺は。おまえたちの代が」
俺は、このままでいたかったのだろうと改めて思った。水城と同じ世界を望んでいる誰かがいたとしても、多数派だったとしても。俺は現状を維持したいと思っていたのだろう。
「おまえたちの学年で、特にアルファだオメガだ、そんな噂が蔓延しているのは、もちろん水城が在籍していると言うこともあるのだろうが、俺の目にはそれだけじゃなく映る」
「どういう意味ですか?」
「今まで抑圧されていたものが溢れ出したように映ると、そう言うことだ」
それが倫理観だとでも言うのだろうか。だとすれば、今までのもので何が不満だったのだと、そう思う。少なくとも、皓太はそう思う。無理やり、抑え込まれていたわけではなく、この世界で生きていく上での当然だと思う。そう考えている寮生も何名もいるとも思いたいのに。
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