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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-1

[9] 「大変だったみたいだよ、ハルちゃん。可哀そうに」  早朝七時。寮生委員会に所属している生徒を始め、みささぎ祭の運営に関わるメンバーが集結したグラウンドである。足を踏み入れるなりクラスメイトに、そんな声を掛けられて、皓太は荻原と顔を見合わせた。 「水城が? なに、どうしたの。体調でも崩したって話?」 「いや、そうじゃなくて。昨日の夜、楓寮で泣いてたんだって。折角、僕を選んでくれたのに優勝できなくてごめんなさいって」  このクラスメイトは、楓寮ではなく葵寮だったと思うのだけれど。良くこんなに早く昨夜の噂が出回っているものだと、半ば感心する。  ――それだけみんなの興味があると言うことなのだろうけど、なぁ。 「あー……、いや、まだ決まってないだろ」 「決まってはないけどさ。ほぼほぼ決まりだろ。謙遜しなくても良いって。でも、そのおかげで、すっかり櫻寮は悪者らしいから、気を付けろよ」 「気を付けろって言われても。誰もそこまで悪質なこと仕掛けてこないでしょ」 「そうも言ってられなくなるのが、ナイトってヤツなんじゃないの?」  取り成す調子で苦笑した荻原に、同級生が僅かに口角を上げた。ナイト。果たして、水城には何人のナイトとやらがいるのだろうか。まだこの学園に足を踏み入れてから、二ヵ月も経っていないのに。  言いたかっただけなのか、ふらりと違う輪に向かって背が遠ざかっていくのを見計らって、荻原が苦笑いで口を開いた。

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