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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-5

「なんだよ?」 「いや、人が多いなと思って。カメラを構えてるヤツがいたら言えよ」  目敏く皓太の機嫌の下降を悟ったらしい榛名に言い繕って、周囲を見渡す。ミスコンのポスターが掲示されている投票所に近づいてきていることもあって、来場者が多数足を止める、人口密度の高いスポットだ。  ざわめきの中心は、ポスターだ。個人名は伏せられ寮名だけが記された、さながらアイドルのようなポートレート。  そのうちの一枚は、ある意味で皓太にとって、昔から見慣れた顔だ。茅野が当日票は堅いと豪語していただけはある目を引く華やかさ。手間暇がかかっていることは間違いないが、良く化けたなぁとも素直に思う。水城と違って、少女めいた顔と言うわけでもないのに。その掲示の前で飛びかっていた会話が耳に留まって、皓太は巡回の足を遅めた。外部からの来場者の少年たちだ。 「すっげぇ、これ、マジで男なんだよな?」 「男子校なんだから、そうだろ、陵は」 「でも、めちゃくちゃ可愛いよなぁ、特にこの二人。いや、可愛いって言うよりかはなんかエロいかも、こっちは。――あぁ、どうりで。この二人がトップ争いをしてるんだ」 「どっちに投票する? あれ、でも、なんか、この子、誰かに似てるな。誰だろう?」 「あぁ、そういや……」  彼らのうちの一人がスマートフォンを掲げたのを契機に、皓太は威圧的にならないように声をかけた。 「すみません。申し訳ないんですが、みささぎ祭は写真撮影一切禁止なんです。個人情報の流出を防ぐためと言うことで、ご協力よろしくお願いします」  駄目押しに微笑めば、素直に彼らはスマートフォンを仕舞う。尻すぼみに話が消えていったのも確認して歩みを戻すと、榛名が何とも言えない顔で押し黙っていた。相変わらず、貶されるのも嫌だが、褒められるのもそれはそれで癪らしい。学園内とは別の方向で、こいつは学園祭が終わった後も引きずりそうだ。失笑しかけたのを誤魔化すように、当たり障りのない話を振る。  素直に喜んでいたら良いのに、とも思うが、それが出来ないのが榛名の榛名たる所以だ。

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