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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-7
「それこそお友達ではないだろうけど、成瀬さんでも茅野さんでも篠原さんでも。おまえ、好きでしょ」
「まぁ、それは、そうだけど」
「だったら良いんじゃない、それで」
人間嫌いではないと言うのなら、それで。最低限の人付き合いが出来ていると言うのなら、それで。
「高藤?」
苦笑で誤魔化した皓太を訝しがる調子で、榛名が名前を呼ぶ。間違ったことは、言っていないはずだ。そう在るべきだと思っていたのも自分だ。だから、皓太は何事もない顔を崩さないまま、時間を確認して、次の行動を提案した。
「もうそろそろ、交代だな。戻ろうか。榛名は開票の方に行かないと駄目だろ?」
皓太は最後まで警備の仕事があるが、榛名は来場者票の開票要員になっていた。実際、交代の時間は近づいてきている。いつもの通りの声のはずだったのに、榛名が足を止めた。そして言い淀む。
「なんか、……」
「なんだよ。どうかした?」
どうも、しないはずだ。自分が一瞬で消し去った、自分でさえ認めきれない感情の揺らぎに気が付いたのだと言うのなら。気が付かなかったことにしてくれ、とも、どこかで思った。
「なんか、おまえ、遠い」
そして結局、榛名が紡いだのはそんな言葉だった。
色素の薄い瞳がまっすぐに自分を見つめている。相変わらずの足りない語彙で、けれど、どこまでも真っ当に、まっすぐに。逸らしたのは、皓太だった。
「悪い。意味、分かんねぇわ、それ」
何も分かっていないくせに、そんなことを言わないで欲しいと。責めてしまった自分の衝動が一番分からないと思いながら。榛名はそれ以上の何をも言わなかった。
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