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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-11
「そうでもしないと、見ても貰えねぇからだろ?」
「その減らず口から叩き折って欲しいのか、成瀬」
「認めるのか? おまえが」
いつも「会長」とふざけたようにしか呼ばない本尾の呼称が変わる。一触即発の空気の中でも成瀬の態度は一向に変わらない。さも平然と見据えている。けれど、膠着は長くは続かなかった。呆れた風に笑って、本尾が手を離す。何か言っていたようにも思えたが、その声は皓太の耳には届かなかった。そのまま本尾が自分がいる方とは反対側に消えていくのを見とめて、皓太はようやく前に足を踏み出すことが出来た。
「見ているこっちが心臓に悪い挑発しないで下さいよ、成瀬さん」
漏れた本音に、そこまで驚いた素振りもなく成瀬が振り返る。好戦的とさえ言えたそれも鳴りを潜めて、見慣れたいつもの空気に戻ってはいたけれど。いつから気が付いていたのだろうかとの疑念が過る。
「なんだ。いたのか、皓太」
「いたと言うか、出ていく隙もなかったんですって。覗き見してたわけじゃないですからね、俺」
「気にしなくて良い。あいつのあれは、ただの八つ当たりだ」
良い性格しているなぁ、と思うのは、こう言った一面を垣間見た時だ。さも自然に他人の機微を読み取って、利用する。そのあたりも込みで、皓太は「こう言う人だ」と認識しているが、榛名は王子様だとでも言わんばかりの夢を見続けている。
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