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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-14

「良くも悪くも、皓太はなんでもできるから、期待値が大きいんだろうな。こうやって、余計なことまで聞かされる」  可哀そうに、と言われているようだった。皓太の瞳をじっと見据えたまま、成瀬は言い切った。 「気にしなくて良い」  篠原や茅野に暗に示されたものとは正反対の応えだ。それに縋りつきたいような安堵感も確かにあるのに、求めているものでもないとも思う。かわされている。 「祥くんは、どう思ってるの?」  だから、もう一度だけ問いかけた。 「人が入れ替われば、内部の空気が変わるのは自然な流れだよ。何も不安に思うようなことはない」 「それは祥くんの本音?」 「皓太」  言い聞かせるように、あるいは反論をねじ伏せるように。彼が名前を呼んだ。 「心配しなくて良い、何も。大丈夫だから」  それは、ここが、この人が創り上げた楽園だから、なのだろうか。皓太の葛藤に気が付いたのかもしれない。諫める調子だった口調が和らいで、子どもを阿るようなものに変わる。 「皓太は、皓太自身と皓太が大切にしたいと思うことを優先したら良い。皓太は周りが見えすぎるから」 「祥くんが大事だと思っているものを、祥くんは今、守ってるの」  アルファもオメガもいない世界とやらを。たとえば、榛名が安心してあと三年、過ごすことが出来るような世界を。

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