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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-18

「さっき、見てただろ、おまえ」 「……すみません」 「べつに、誰も謝れとは言ってねぇよ。見られたくなかったら、場所くらい考える」  威圧的なそれと言うよりは苦笑に近い。案外、それは本音に近いのではないかと思えた。見せたい相手は自分ではなかっただろうけれど。 「そう言えば、おまえ、あいつの幼馴染みなんだって?」  本尾の言うところの「あいつ」が、ステージの中央に立ったところだった。マイクを持つと、桁違いの歓声が上がる。華やかな人だと遠目にも思う。先ほどの校舎裏でのやりとりが嘘のようだとさえ。  皓太は答えなかったが、構わず本尾は続ける。 「あいつが泣いてるところ、見たことあるか?」 「え?」  思わず視線をステージから逸らす。本尾は変わらず前方を見据えたまま、鼻で笑った。 「泣かしてやりてぇよな。昔から、何をやっても、あの顔から変わらねぇんだよ」  泣いている顔どころか、怒っている顔もほとんど見たことがないかもしれないな、と不意に思った。今は、ではない。あの頃から、だ。彼は子どもの頃から、彼として完成していた。基本的にいつもあの通りだ。あの通りを十八年、貫き続けている。  ひび割れたマイクの音量が一層、けたたましくなって、場内が沸いた。いつの間にか、雌雄が決していたらしい。みささぎ祭のメインイベント。終わらなければ良いとさえ思ったそれも、あっと言う間に流れ落ちていく。中心にいるのは成瀬で、そのすぐ傍に茅野がいる。櫻寮。

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