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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-19

「ほら、見てやれよ。櫻寮のご優勝だ」  喧騒をものともしない冷めた声で、本尾が哂う。 「しかしまぁ、茅野も自分が寮生委員会のトップだからって、好き勝手やるよなぁ。ある意味で、会長様と良い勝負だ」 「茅野さんが?」 「おまえがどう思ってるのか知らねぇが、あいつは昔から強硬な会長派だ」  強硬な会長派、と言う台詞は、皓太の中の茅野のイメージと上手く合致しなかった。 「中立派を気取っている分、柏木なんかよりよっぽど性質が悪いと俺は思うが」  皓太の反応を見るように、本尾の視線が落ちる。 「今回のこれも、どうせあいつが仕組んだんだろ。あいつが一瞬でも下に見られるのが、我慢ならなかったんじゃねぇのか?」  表彰の挨拶に切り替わったステージで、準優勝の花を受け取った水城がマイクを持つ。涙交じりの声が健気に感謝と至らなさとを告げていて、応援する声があちこちから飛び交っていた。その声が、どこか遠い。 「まぁ、あいつが狙ったとおりに転んだとしても、一波乱あるぞ、間違いなく」  一波乱。その声を受けて、皓太はゆっくりと本尾に視線を向け直した。 「本尾先輩は、波乱を起こして欲しいんですか」  水城に。あるいは、楓寮に。問う声は、思っていたよりもずっと平たいものになった。 「おまえのそれ、あいつに似てるな」  皓太を見降ろしていた本尾の瞳に、面白がる色が乗った。その眼がゆっくりと細くなって、吐き捨てる。

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