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パーフェクト・ワールド・ハルⅨ-20

「冗談。入って来たばっかりの一年に、潰させてたまるかよ。何のために、俺がここまで待ったと思ってるんだ」  とうとう言葉に詰まった水城の華奢な肩を、楓寮の寮長が抱きかかえ健闘を讃えている。とんだ茶番だ、と確かに思った。けれど、それはきっと少数派だ。 「高藤」  その声に引きずられるようにして、皓太はステージから背を向けた。ステージは益々の盛り上がりを見せている。榛名も舞台袖で見ているのだろうか、と思った。笑っているだろうか。 「見限りたくなったらいつでも言えよ。風紀に迎え入れてやる」  本尾の声は笑っていた。 「それはないですよ、俺は」  すげなく断った皓太を責めるでもなく、本尾が言葉を継いだ。 「それは残念だ。でもなぁ、高藤。断言しても良い。会長様に言ったところで、あいつは結局のところ、何もしねぇぞ。動くのはいつも向原だ」  大丈夫、と言った成瀬の顔が思い浮かんで、本尾に弁明しても意味はないのに否定しようと皓太は試みた。けれどそれより先に、本尾がどこか苛立たし気に言い足す。 「あの夢みたいなことばかりほざく理想論者のどこが良いのか知らねぇが、絆されてから、ずっとそうだ」  音響からは明るい音楽が流れ始めていた。数年ぶりに櫻寮の優勝です。そんな煽るような声とともに。盛り上がる会場の中で上がった野次は、消えきらない。 「俺は、あいつと出逢う前の向原の方が、ずっと真面だったと思うがな。今のあいつは、あいつじゃねぇよ」  ゆっくりと本尾の視線が皓太からステージに移る。そこにいるのは、あの人たちだ。 「なぁ。おまえは、今が気に喰わないって顔をしてるが。そもそも今を創り上げたのはあいつだろう? それを気に喰わないと思いながらも、俺は四年間過ごしてきた。だったら、今、俺がそれを壊したところで、あいつに文句を言う筋合いはないと思わないか」

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