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パーフェクト・ワールド・ハルxx-4

「お疲れ」  茅野たちの輪の中から出てきた高藤に声をかける。高藤はわずかに意外そうに眼を瞠った。 「良かったの。折角、二人きりだったのに」  揶揄う調子のそれに、行人はどこか安堵しながら、軽口を返した。 「べつに。狙ってたわけじゃないし。たまたま外に出たら、成瀬さんがいただけで」 「嫌になった? 今日は萩原たちと楽しそうにしてるなって思ってたんだけど」  苦笑気味に高藤が、少し前まで行人のいた同期生たちの集団に眼を向ける。  でもおまえはその中にいなかったじゃないか、との文句を呑み込んで、「あのさ」と問いかける。  それとも、俺の近くには来たくなかったのだろうか、との懸念も一緒に呑み込んで。 「変なこと言った」  主語も何もあったものではない。けれど、寸分違わず伝わっているはずだった。  言うべきではなかった、と、行人は思っている。「同室者」であるところの自分たちには似合わない表現だったとも。 「気にさせたなら、ごめん」 「いや?」  応じた高藤は、ある意味でいつも通りだった。 「全然。どうした、急に」  高藤を前にすると、ひどく気が抜けることがある。  だから、あんなことを言ってしまったのだと分かっていた。

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