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パーフェクト・ワールド・ハルxx-5
ともすれば自分の本音をもらしてしまいそうで、行人はそれが少し怖い。そしてそれは、距離を開けられるのだろうか、と。不安に感じたそれと、ひどく矛盾しているとも気が付いていた。
その全てを切り取って、「意味が分からない」と断じた高藤は何も間違っていない。
それなのに、俺は何を期待していたのだろう。どう答えて欲しいと思っていたのだろう。
応じる答えなど、行人自身、持ってもいないのに。
「なら、良いや。なんでもない」
「そうか」
そこで一度、会話が途切れた。会場の喧騒から自分たちの半径分だけ取り残されたように。
けれど、円の外に出ようとは思えなかった。
「あ……」
中庭に足を向けた影に、無意識に声が漏れる。
「向原さんじゃない? 今日は生徒会でずっと出ずっぱりだったみたいだから、二人にしておいてあげたら?」
「べつに、」
誰も邪魔をしに行こうとは思っていないし、ここを離れようとも思っていない。
「あの人たちも、ずっと同室なんだっけ」
「いや、……最初の一年目は違ったんじゃないかな、確か。成瀬さん、柏木さんと同室だったって聞いたことあるし」
「へぇ」
「でも、そのあとはそうだったんじゃないかな。昔からなんだかんだでずっとつるんでるし。あの人たち」
まぁ、馬も合うんでしょ、とこともなげに高藤が続ける。
俺は、きっと、同室でなければ、高藤とこんな風に話すこともなければ、こんな距離にいることもなかったのだろうなと思った。
あるいは、成瀬さんとだって、そうかもしれない。
高藤と言う媒介がなければ、近しく話しかけてもらえる存在にはなれなかったのかもしれない。
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