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パーフェクト・ワールド・ハルxx-8

 大丈夫。誰にも言わない。でも、もし、行人が苦しかったら、俺に吐き出したらいい。すべてを理解出来るなんて言わないけど、一緒にどうしたら良いのかを考えよう。どうにもしたくないのなら、話だけでもいいから聞かせて。一人で抱え込まなくていい。せめて、この学園にいる間は。  ここが行人にとって、幸せな場所であってくれたら良いと、そう思っている。  三年前の話だ。オメガの自分が全寮制の学園で過ごすことは無理だったのだと早々に思い知った夜があった。もう辞めたいと折れかけていた行人の心を繋ぎ止めたのは、彼だった。到底、理解できない、相容れないはずのアルファだった。  オメガがアルファに襲われたところで、責められるのはオメガで、アルファではない。発情しフェロモンを振り撒き、誘ったオメガが諸悪の根源で、アルファはいわば、フェロモンにあてられた被害者なのだ。アルファが正しく、オメガはそうではない。どれだけ権利は平等なのだと叫ばれるようになった昨今でも、結局、それが現実で、それだけしかない。  それなのに、あの人は退学すべきは手を出そうとしたアルファで、行人ではないと言った。  アルファのくせに、とは思わなかった。怖いとも思わなかった。つがいでも、なんでもないのに。触れられても、ちっとも恐ろしくなくて。あぁ、この人が運命だったら良いのにと。あるわけもないことを確かに願った。  この人は、本気で自分を、――榛名行人を見てくれていると思った。オメガの自分でも、オメガ性を隠してベータとして振舞っている自分をでもなく、ただ一人の後輩としての榛名行人を。  だから、まだ生きていけると思ったのだ、その瞬間。自分を自分として認知してくれる誰かがいるのなら、ここで。

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