136 / 1144

パーフェクト・ワールド・ハルxx-9

 自分が、学園を好きだと言わなかったことを高藤は気が付いていたのだろうか、とふと思った。  好きだとか、嫌いだとか。そんな次元でくくることは出来ないくらいに。この場所は、大切で、そして、最後の砦だった。  自分が、榛名行人として生きていくために。  その道の隣に、もし、――いてくれると言うのなら、幸せだとは思うけれど。同時に望み過ぎだとも分かっている。過ぎたる望みは身の破滅を呼ぶ。分かっている。だから、このままでいい。  このままがいい。 「相部屋なのはどう頑張っても今年限りだけどな」  同室者、と言う括りはそこでさようなら、だ。その先は知らない。ただ、成瀬たちのようにはなれそうにない、とは分かっていて。小さく笑ってみせた行人に、高藤は一瞬、何か言いたそうな顔をして、けれどすぐに笑った。いつもの顔で。良いな、と思った。  敵しかいないと思っていたこの学園で、巡り合えて良かったとも思った。  この一瞬があれば、生きていけると思ったのは、成瀬がいたから、だけではない。絶対に、絶対に言わない。何があったのかと自分を問い詰めることも出来ただろうに。秘密を知ろうと思えば、知ることも出来ただろうに。何も言わず、何もせず、態度を変えず、同室者のままでいてくれた。  あの夜、何も言わないまま、ただ同じ部屋にいてくれたことが、本当に嬉しかった。  それは行人の中で、秘密のままで朽ちていくのだろうけれど。

ともだちにシェアしよう!