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パーフェクト・ワールド・レイン00-3

「おまえ、追い出すつもりじゃねぇだろうな」 「まさか」  それこそそんな傲慢なことをするつもりはないし、自分一人の考えで出来るとも思っていない。 「オメガにもこの学園に在籍する権利はある。俺はそれを否定するつもりはない」  いつもの顔で成瀬は微笑んだ。長年つるんでいる相手に、通用するとは思っていないけれど。 「じゃあ、オメガだって言うのを売りにのし上がろうしているところの、水城春弥には?」  案の定、篠原は、はかるように言葉を継いでみせた。成瀬も笑みだけを深くする。しばらくの間の後、篠原が小さく肩を竦めた。 「そう言う意味では、最初に喧嘩を売ったのはおまえなわけだ」 「いや、あいつだよ」 「はぁ? 水城が? おまえに?」 「うん、一番最初。講堂で逢った時に」  オメガはオメガを見分けるのだろうか。アルファをすぐにそれと分かるのと同じように。  ――僕と同じ匂いがする。  そう口にした少年の瞳に宿っていたのは、確かな憎悪だった。  行人には言われたことはなかったんだけどなぁ、と思って、いや、あれは『刷り込み』が完了した後だったからかと思い直した。  アルファの成瀬さん。アルファの中でも飛びぬけた能力を持つ生徒会長。そう見られるように、そう思われるようにしか生きてこなかった。  けれど、それを間違いだったとは思わない。  もはや、意地だ。そのことを自分自身が一番分かっている。けれど、それを捨てて拭い去った瞬間、自分は自分でなくなってしまうのではないかとも思っている。  オメガだと分かったときに、一度、自分は死んだのだろうと思う。築き上げていたアイデンティティが崩れ落ちたと言う、意味では。そこから立ち上がった先に残されていたのは、アルファとして生きる道だけだった。だから、それだけがすべてで、築いてきた。今を。  その中で、ひとつだけ予想外だったことがあったとすれば、あいつの存在だったのかもしれない。あいつ。向原鼎。自分とは違う、本物のアルファ。父と母が望んで、けれど、そうはなれなかったアルファの中でも特別なアルファ。アルファの上位種。  それは、自分が手に入れられなかったもののすべてだった。    [ パーフェクト・ワールド・ハル 完 ]

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