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パーフェクト・ワールド・ゼロⅡ①

[第二部] 「あれ。おまえ、今日、ここに戻ってきたりした?」  勉強机の鍵付きの子引出しが、僅かに開いている。たまたま校舎を出たところで遭遇し、そのまま一緒に帰寮した同室者は、行人の問いかけにあっさりと首を振った。 「なんで。おまえじゃあるまいし。忘れものとかで戻ってきたりしないけど」 「悪かったな」  うっかりレベルの忘れ物が多い自覚は一応、ある。この部屋の鍵も入寮して一月と経たずに一度失くしてもいる。……のだけれど。 「なに。なんかないの?」 「いや、……なんでも。鍵、かけ忘れたっけって思っただけ」  なんのかんのと言いつつ、面倒見の良い男が近づいてきて、行人は問題ないと取り繕った。 「あ、そう。なら良いけど。気になるなら、茅野さんに伝えておくけど。それも良い?」  大丈夫。悪かった、と続けて、行人は中身を確かめるでもなく引き出しを閉めた。  行人の行為に不審そうな顔を垣間見せたが、それも一瞬で。問い詰めることもなく高藤は背を向けた。それにほっとしながら、大丈夫、と行人は自身に言い聞かせた。  大丈夫。こんなところに、侵入してくる誰かなんているわけがない。まして、この机の奥底に眠っているものに気が付くはずがない。  ――ここの鍵だけは、かけ忘れるわけがないんだけどな。  それとも、無意識のうちに気が緩んでいたのだろうか。だとしたら、気を付けないといけない。櫻寮で安心している、と言うことと、自身の秘密を守ることは全くの別問題だ。  引き出しの中には、抑制剤がある。万が一の為の避妊薬もある。ばらばらと包装を外してピルケースに入れているそれを、誰もオメガのそれだと気が付くはずもない。だから、きっと、変わらずにあるはずだ、ここに。今もこれからも。  そう分かっているのに。高藤がいる前で、中身を確認することは出来なくて。全部、杞憂に決まっている。そう言い聞かせている時点で、嫌な予兆を感じ取っていたのかもしれない、もしかすると。  それもすべて、あとになった今だからこそ、言えることではあるのだけれど。

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