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パーフェクト・ワールド・ゼロⅡ②

[パーフェクト・ワールド・ゼロⅡ]  手のひらの中に、いくつものカプセルが転がっている。自分が日常的に服用しているものとはまた少し種類が違う。  ふぅん、と思った。大変だね、第二の性を隠そうだなんて人種は。こんなにきついものを飲んで隠さなきゃいけないんだ。 「ハルちゃん?」  甘い声で呼びかけられて、水城春弥はいつもの笑顔を張り付けた。ベッドには事後の余韻が色濃く残っている。腰に周された腕をそのままに、振り返る。楓寮の三年だ。アルファ。寮内のヒエラルキーは一応、上位で、特別フロアに籍を置いている風紀委員だ。 「ごめんなさい。ちょっと」 「大丈夫? 無理させちゃったかな」 「ううん、全然」  天使みたいだと評される微笑を浮かべて、水城は手に持っていた薬をそのまま飲み込んだ。副作用、あるのかな。一瞬そんな疑念が浮かんだが、まぁ良いやとすぐに思い直す。そうなれば、そうなったときだ。誰に縋りついてみようかなと考えるだけで楽しくなる。  ――寮長、かなぁ。篠原先輩は、まだちょっと難しいな。……この人も悪くはないけど、僕はもっと、もっと先が欲しい。  まずは、楓寮での絶対的な地位を。そのあとは、学内を。僕が僕として、生きていくために。 「迷惑をかけるといけないから、薬だけ飲んじゃいますね」 「大変だね、オメガは」 「でも、だからあなたと一緒にいられますから。もし、僕がベータだったら、こうはいかなかったでしょう?」  にっこりと微笑む。水城は自分の魅力を存分に知っていた。それを利用することのどこが悪いのだ。

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