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パーフェクト・ワールド・エンド17-12
そんなことを、自分は望んでいない。絶対に、望んでいない。
オメガとしての幸せなんて、考えたこともないはずだった。そのはずだったのに。
散漫になる思考のなかでも、足は勝手に自分にとっての安全圏に向かって進んでいた。この学園で人目につかないところ。ひとりになれるところ。万が一の最悪を想定して、ずっと確保していた逃げ場。
遠くでチャイムの音が聞こえて、ほっとした。この学園の生徒は基本的に優等生ばかりだ。授業をさぼろうとする人間はほとんどいない。
足を踏み入れた場所に誰の気配もないことを確認して、詰めていた息を吐きだした。これで、やり過ごせる。
なぜこんな事態に陥っているのかという原因の追究を放棄して、薬を握り締めた。医者の言うところの馬鹿のような過剰摂取で、ようやく効いたと思ったのが過信だったのかもしれない。
そう思うことで誤魔化そうかとも考えたが、そんなわけはないことは、自分が一番よくわかっていた。
なにがあっても動じないはずの自分。ひとりでいて平気なはずの自分。なんでもひとりでやれるはずの、強い自分。
その自分の強固な殻を打ち崩すのは、いつだって、ひとりだけだった。
自分がこんなみっともない感情を持っているなんて、知りたくなかったのに。
パキ、と背後で木の枝を踏む小さな音がした。その音に、はっとして振り向く。立っていた男を視認した瞬間に、舌打ちが零れた。
できることなら、この男にも会いたくはなかった。間の悪さを恨みながら、表情を切り替える。切り替えた、つもりだ。
「おいおい」
馬鹿にしたように本尾が笑った。
「まったく隠せてねぇぞ、会長様」
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