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パーフェクト・ワールド・エンド18-5
――まぁ、なにもないって言うなら、それでいいんだけど。
半分以上自分に言い聞かせる調子で、皓太はそう思いきった。
あの夜、たしかに感じたむせかえるような甘い香りと、寮内に蔓延っていた熱気。そして。
――あんな向原さん見たの、はじめてだったからな。
感情の軸のぶれない冷静な、頭のいい人だ。皓太の記憶にある限り、感情的な態度を見たことはなかった。あのときまでは。
年下の自分には見せなかっただけで、同学年の成瀬や篠原たちに対しては違ったのかもしれない。珍しい姿ではなかったのかもしれない。
そう言い聞かせてやり過ごしてきたが、どうもあの一件以来、成瀬と向原の関係がよくないように思えてしかたがない。
もちろん、あからさまに喧嘩しているわけではないし、親しくない人間は気がつかない変化だともわかっている。けれど、わかる人間にはわかる程度にはおかしい。
点呼の報告がてら茅野にちらりと聞いてはみたものの、放っておけの一言で終わらせられてしまった。予想の範囲内ではあったものの、放っておけるくらいなら最初から聞きはしないのに。そう思った不満が滲んでいたのか、茅野が付け足した。
まぁ、なんだ。どうせ明日からしばらく成瀬がここを空けるから、ちょうどいい冷却期間になるだろう。
だから気にするなと言い含められて、姉妹校交流の一環で陵女学院に行くという話を聞いていたことを皓太は思い出した。
そして、茅野の言い分に、ひとまず納得したのだった。同じ寮室で気まずいまま過ごすよりは、物理的に距離を置ける時間があるほうがたしかにいいだろう。
戻ってくるころには、案外となにもなかったような態度になっているかもしれないし。
楽観的なその考えが予想外のところで裏切られることを知るのは、その翌日のことだった。
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