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パーフェクト・ワールド・エンド18-10
「いや、まぁ、榛名には気にするなとは言ったんだけどな」
「昨日のこと、もうそっちでも噂になってるんですか」
「成瀬と茅野に隠す気があっても、無駄に目立つ大女優様に隠す気がなかったらバレるだろ」
「あぁ」
つまるところ、櫻寮生に留まらず何人も目撃者がいるらしい。
「そうか。そうですね」
「おまえの言うとおり、気にするようなことじゃないはずなんだけどな。本当だったら」
「本当だったらって?」
「あいつ自身も気づいてない……というか認めないだろうけどな。中等部にいたころとは状況が違うし、一ヶ月前とも状況が違う」
言わんとするところはわかったけれど言葉にしたくなくて、曖昧に頷いてみせた。その葛藤を知ってか知らずか、篠原はさらりと言い放つ。
「違うだろ。どう言い繕ったところで意味ねぇよ。おまえにもわかるだろ。成瀬ひとりじゃ完全な強者にはなれない。逆もそうだ。向原ひとりじゃ圧倒的な強者にはなれない。腐ってもアルファの巣窟だからな、ここは」
「それは、……わかりますけど」
「まぁ、それでもあいつらは頭ひとつ抜けてるよ、ほかのアルファよりもな。そう思われてたのは事実だ。ただな、一対複数のアルファなら後者が勝つだろ。実際はどうかはわかんねぇけど、そう思われても当たり前だ。でも、なんだ。その頭ひとつ抜けたアルファがふたり並んでたら、それだけで挑む気を削がれる」
放り出しかけていた書類に手を伸ばしながら、篠原がおざなりに続けた。過去形で。
「だからここの王様だったんだよ、あいつらが」
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