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パーフェクト・ワールド・レイン0-3

「大丈夫。問題ないから。向原にしてもらうようなことでもないし」 「じゃあ、本尾を引き受けてくれたお節介のお礼、って言うのは?」  口角を引き上げた向原に、一瞬、言葉に詰まった。こいつらの仲の悪さは折り紙付きだ。それだけではないとも思うが、言ったところで、向原に改める気がないのは分かり切っているので、変化は認められないだろうと諦めてもいる。  ――べつに、俺個人だけのことで言えば、そこまで嫌いでもないんだけどな。アルファだから鼻に付くって言うのは差し置いても。 「俺のところに来たから、ちょっと相手しただけで、べつに」 「成瀬」  言い訳染みた台詞を変わらない顔で遮って、向原が続けた。 「言っても無意味だと思うんだけど、言っても良い?」 「嫌味か、それは」  頑固だと評されるのも、人の話を聞かないと言われるのも、事実ではあるが。苦笑いを返 した先で、向原からすっと表情が消えた。 「あんまり、あいつと二人で会うな」  それは、俺がおまえたちとは違うからか、との悪態は呑み込んで、笑う。 「好きで会ってるわけでもねぇよ」 「だから、そう言う場面を作るなって言ってんだ」 「心配されるようなことはねぇよ、何も」 「成瀬」  トーンの下がった声に、成瀬は張り付けていた笑みを引っ込めた。そして告げる。取り成すような、静かなそれで。 「約束しただろ、昔」  この男にとって、何の役に立つのか分からないような、それを。 「覚えてたんだ?」  そうは見えないと言いたげな調子に、「覚えてるよ」と成瀬は応じた。忘れるわけがない。

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