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パーフェクト・ワールド・レイン0-4
「俺は、アルファだから。少なくとも、ここにいる間は。だから」
問題ない、と。本物のアルファに向かって、こんな馬鹿みたいなことを言うなんて、滑稽にもほどがある。内心どう思っているのかは知らないが、向原はそれを嗤わない。けれど、同時に、それ以上を踏み込んでも来ない。だから、これは自分がオメガだからこそ使える、そして向原の甘さにつけこんで引く、一線だった。
「まぁ、でも。俺もわざわざ面倒事を起こしたくはないし、気を付ける」
それも一応、本心ではあったのだけれど。
「あと一年だしな」
閉ざされた世界の終わりを、待ち望んでいるのか、そうでないのか。たまに自分でも分からなくなるときがある。けれど、終わることに間違いはない。春の初め。この部屋で同じことを自分は言った。同じ相手に。
向原は、結局、それ以上は言わなかった。ただ、一言、「そうだな」と頷いただけで。
――こんなことになるとは、あのときは思ってはなかったけどな。まぁ、でも。
問題ない。上手くやれる。今までのように。この学園の中にいる間は、きっと。言い聞かせるように念じて、成瀬はふと初めてここに足を踏み入れたころのことを思い出した。問題ない、と慢心していた、アルファになど負けないと高を括っていたあの頃の、自分を。それも、思い込みでしかなかったとすぐに悟ったことも。自分は結局、オメガでしかないと思い知ったことも。
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