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パーフェクト・ワールド・エンド19-2

 ざり、と砂利を踏む足音が不自然に途切れる。ここまで近づかないと他人の気配に気がつかなかったのか。そう思えば、単純に呆れた。  ――ここを敵だらけだと考えねぇから、そうなるんだろうが。  オメガである自分への激しい劣等感の裏返しのように、並のアルファには負けないと思い込んでいる。  実際にそうであるから性質が悪いと思うのだが、「そう」でいられない場合もあるはずだった。そう、たとえば、フェロモンのコントロールを失ったようなときだとか。  だから、気をつけたほうがいい。  過去に何度も忠告してやったことがある。あの男は、まったく耳を貸そうとはしなかったが。 「成瀬」  数メートル手前で立ち止まった男に向かって呼びかけると、はっとしたように視線が下がる。  無意識なのか、左手が心臓のあたりを握り締めていた。 「っ、なんで、こう……会いたくないやつばっかり」  俯いたまま吐き捨てた成瀬が踵を返そうとする。舌打ちひとつで、向原はその腕に手を伸ばした。指先が異常な熱を感知したのとほぼ同時に、手の中で腕が震える。  その反応は、あまりにもらしくなかった。 「離せ」    押し殺した声が唸る。 「それでおまえはどこに行くって?」

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