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パーフェクト・ワールド・エンド19-9
「やめろ!」
飛び込んできたのは、茅野の声だった。見下ろしていた顔が固まる。
この期に及んでも一番に気にするのが外面なのかと思えば、心底馬鹿らしかった。その馬鹿らしいものに、もうずっと振り回されている。
「後悔するのは、おまえだぞ!」
ぐっと茅野の手が肩を掴んだ。それでも、向原は成瀬から視線を外さなかった。
その瞳には、さきほどのような激しい感情は宿っていない。けれど、成瀬もまた視線を外そうとはしなかった。
また張り詰めた沈黙が流れる。破ったのは、冷静さを保った呼びかけだった。「向原」
「泣きを見るのもおまえだ。成瀬じゃない」
言い聞かせるように、茅野は繰り返した。
「成瀬じゃない」
どこか哀れむような調子に、向原は小さく笑った。茅野が言うことは、笑えるほどに正しかった。
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