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パーフェクト・ワールド・レインⅠ-6

「そうですね、そうかもしれません」  否定もせず、水城は笑う。この顔が笑顔以外を作っているのを見たことはないなと思って、あぁ、でも、泣いたのだったなと聞いた話を思い出した。  学園祭の前日。力不足でごめんなさい、と。ここぞと寮で泣いていたと篠原が言っていた。楓寮は、ほぼほぼあいつに陥落されているぞとも。 「いろいろな生き方があるとは思いますが、僕は、僕がこの学園で生きていくためには、オメガであることを公表した方が身の安全が確保できると思ったので」 「隠して生きていくよりも、安全だって?」  理解ができないとは思わないが、多くのオメガが採ろうとしない選択肢だとは思う。オメガであるとバレると言うことは、アルファに蹂躙される可能性が秘密が秘密でなくなった回数分、増えると言うことだ。  そのリスクを回避したいと思うのは、必然のはずだ。 「ここはお上品な学園でしょう? 第二の性は秘匿であるべきと言う理想論が守られている。少なくとも、見せかけ上は。その環境で、アルファが卑劣にもオメガと公言している僕を襲うのか、となれば。どうかと言うことです」  蠱惑的な微笑を浮かべたまま、水城は言い切った。  ――その自信は、どこから来ているんだろうな、一体。 「それだと、きみ以外の生徒が、ひどくきみに気を遣う環境が出来上がるんじゃないかな」

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