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パーフェクト・ワールド・レインⅠ-9
「成瀬」
校舎を出る直前にかけられた声に、またか、との苦笑いを呑み込んで振り返る。先ほどと違って面倒な手合いでないだけマシだ。
「珍しいな。茅野がこの時間に校舎にいるの」
「ちょっと、呼び出しを食らっていてな。いや、学業のことじゃないぞ。俺の成績にも生活態度にも問題はない」
「誰も聞いてねぇよ、それは」
無意味に胸を張る茅野の態度に、胸のつかえが少し落ちたような気がした。
「おまえも知っているかも知らんが、今、いろいろと浮ついてるからな、空気が。寮の中で問題は起こすなよとのお達しだ」
「ウチは問題ないだろ、おまえがいるし」
「おまえが買いかぶってくれるのは有り難いが。……まぁ、でも、そうだな。ウチは俺が選んだだけあって、良いヤツばかりだからな」
衒いなく応じた茅野に、そうだな、と成瀬も自然に笑った。皓太にしても、行人にしても。今年入って来た新入生もみんな、そうだ。
「もちろん、おまえも」
「俺はおまえに選ばれてはないだろ。三崎さんだ」
「それはそうだが、似たようなものだろう。一蓮托生ってヤツだ」
二年先輩の当時の寮長の名前を出すと、茅野も懐かしそうに目を細めた。そして、小さく笑った。
「で、一蓮托生ついでに聞くが。おまえ、また楓ともめ事を起こすつもりじゃないだろうな」
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