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パーフェクト・ワールド・レインⅠ-10
「見てたなら、止めろよ」
「冗談。おまえが煙に負けない相手なんてそうそういないだろう」
寮へ向かう道すがら、平然と茅野が言う。
「しかし、相変わらず、水城は良い根性をしているな。おまえに突っかかる下級生なんざ、あいつくらいだろう」
「……茅野に迷惑がかかるような揉め方をするつもりはないから」
「そうか?」
「少なくとも、俺は」
「素直で何よりだ。まぁ、水城のことは……どうだろうな。俺にも分からんが、櫻寮の中では、のんびりしていたら良い。あそこはおまえの管轄じゃないからな」
櫻寮は寮長の茅野の性格を表すような、健やかな空間で。それは茅野が上に立っているから、なのだろうけれど。
「それもそうだな」
「そうだろう。上に立ってばかりじゃ落ち着かんからな。俺は学校ではその分、気を抜いている。おまえも見習うが良い」
「世の中、全員、おまえみたいだったら平和なんだろうな」
それはある意味では本音だった。全員が俺だったら騒がしいだけだろうと、茅野が首を傾げて、それから目前に迫ってきた寮の玄関を指さした。
「お、高藤じゃないか。珍しい」
その言葉の通り、玄関先に座っていたのは、成瀬の幼馴染みだった。近づいてきたこちらに気が付いたのか、顔が上がる。
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