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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 0-1

 特別な人間というものは、生まれながらに存在しているものだ。恵まれた家にアルファとして生まれた自分も、世間一般的に見れば十分に特別な人間なのかもしれないが、その自分からしても「特別」だと思ってしまう人間がいた。  成瀬祥平と向原鼎。このふたりの同級生は、茅野の目には選ばれた者に映っていた。  ――なんにしても、榛名のときほど大ごとにならなくてよかった。  やっとひとりになった自室で、茅野はまだなにも記していない寮の記録簿をペンで叩いた。  寮生が戻ってくるまでに、あの匂いがあらかた収まっていたのは、不幸中の幸いだった。悪運が強いというか、なんというか。  寮生たちの中には「なにか」あったと勘づいている者もいるだろうが、「誰か」までは察せていないだろう。  それも、明日の朝、登校するまで、の話かもしれないが。まぁ、どちらにせよ――。  響いた扉の開閉音に、茅野は考えるのを止めて、ペンを置いた。視線を向けた先にいたのは、半ば予想していた顔だった。 「なんだ、もういいのか」 「おかげさまで」  つとめてなんでもない調子で声をかけると、成瀬もなんでもない調子で笑った。背にしたドアにもたれかかっているものの、顔色は悪くはない。なにより、あの強烈だった甘い匂いはきれいに立ち消えていた。 「礼を言うつもりがあるなら向原にしておけ。俺はたいしことはしていない」 「そんなことないだろ」 「あのな、成瀬……」 「なぁ、茅野」  呼びかけを遮るようにして、成瀬が口を開いた。 「水城のこと、潰したがってたよな」 「まぁ、否定はしないが」  否定はしないが、はっきりと言葉にされると据わりは悪い。しかも、このタイミングだ。  はっきり言って嫌な予感しかしない。溜息を吐きたいのを堪えて、問いかける。できることなら聞きたくはなかったのだが。 「なんなんだ、藪から棒に」 「潰してやるから、手ぇ貸せよ」  そう言ってほほえんだ男は、腹が立つくらいいつもどおりの王者の顔をしていた。 [パーフェクト・ワールド・エンドⅡ]

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