501 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 0-6
「さぁ、どうだったかな」
「いいかげん、その似非臭い笑顔もやめろ」
響かないだろうとわかってはいたが、本当に糠に釘とはこのことだ。暖簾に腕押しでもいいが。
「あのな、成瀬」
どうにか声音を和らげて、人形のような顔に向かって呼びかける。いつも張り付けている笑みが剥がれると、出来すぎた造作が際立ってそんなふうに見えることがあるのだ。
わかっているから、人当たりのいい笑みで武装しているのだろうが。今日の作り笑顔は、この五年見てきたもののなかで一番にひどかった。
見ているこちらが、やめろと言いたくなるくらいには。
「それでも、あいつは、おまえを優先した」
「あれのどこが優先だ。思い切り殴りやがって」
「本当に、そう思ってるのか」
重ねて問いかけると、今度こそ成瀬が黙り込んだ。追い込みたかったわけでもないのに、なんでこう頑ななのか。
あいつ次第だろ、と言った向原の、呆れと諦めに染まった声が思い出されて、茅野は視線をちらりと窓のほうに向けた。
――あいつがいなくてよかったかもしれないな。
これと会わせたら、今度こそ血を見たかもしれない。なにもさせない、と言った手前、面倒を見る義務はある。
「少なくとも、破れかぶれだったおまえよりは、おまえのことを考えていたように見えたぞ、俺にはな」
ともだちにシェアしよう!