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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1-3

「なんか、投げやりだな」 「前向きって言ってよ」  苦笑いひとつで、高藤は視線を落とした。少しの沈黙のあとで、「まぁ、でも」とひとりごちるようにして呟く。 「俺にできるのは、知らないふりを続けることぐらいだしな」 「え?」 「いや、だって、そうだろ。あの人が、俺の介入を喜ぶわけがない」 「それは、まぁ、……そうかもしれないけど」  認めざるを得なくて、行人は頷いた。そういう人だと、知っている。自分に教えてくれたのはイレギュラーだっただけだということもわかっている。あれは、たぶん、あのときのあの人の精いっぱいの誠意だったのではないかとも、今なら思える。 「だろ。だから、割り切るしかないよ。しかたないって」  浅く椅子に腰かけてから、高藤がようやく視線を上げた。変わらない静かな顔に、勝手にまたほっとしてしまった。けれど、続いた言葉は少し意外なものだった。 「それに、たぶんだけど、あの人を舐めないほうがいい」 「舐める?」 「俺たちが心配する必要も、むやみにかわいそがる必要もないってこと」 「べつに、そんなふうに思ってたわけじゃないけど」 「うん。でも、あの人からしたら俺たちに心配されるっていうのはそういうことなんだよ」  むちゃくちゃプライド高いからね、と懐かしむような顔で笑ってから、それに、と高藤は言い足した。 「良くも悪くも黙って負けるような人じゃないよ」  それは、そうだとは思うし、そうであってほしいと思っているけれど。逡巡のあとで、そうだよな、と応じる。本当にそうであってほしいと願いたいような気持ちだった。 「そうなんだよ。そうやって生きてきた人だから」  そこで高藤は一度言葉を切った。言い淀むような沈黙に、問いかけるように視線を向ける。 「あぁ、いや……」 「なんだよ。中途半端に止めんなよ」  気になるだろ、と言うと、高藤がそうだよな、と口火を切った。 「こういうこと言うと、榛名は納得しないかもしれないけど。俺は、水城や本尾先輩よりも、ある意味では茅野さんと成瀬さんのほうが怖い人たちだと思うよ」 「怖い? 成瀬さんと茅野さんが?」  茅野や、成瀬が。腑に落ちなくて繰り返した行人に、高藤は小さく笑った。 「だって、今のこの学園の正義を執行できる側の人間は、あの人たちのほうだよ」

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