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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1-6
幾人もの取り巻きに囲まれた中央で、にこりと首を傾げる。「昨日」、「大変」。意味深長な台詞に、通りがかる生徒たちがこちらを気にするように視線を送り始めていた。
募った嫌な感じに隣を窺うと、予想外にばちりと目が合った。その視線は、余計なことは言うな、するなと言っていて。不承不承ながらも行人は目で頷いた。
俺にできるのは知らないふりを続けることくらいだ、と高藤は言っていた。聞いた直後は反発したくなったが、正しいのだということは理解できている。だから、行人はそっと手のひらを握りしめて、続きを待った。
「僕ね、実はそのことで、ここで待ってたんだ」
「えぇと、誰を?」
こちらを気にしながらも、荻原がぎこちなくほほえんだのがわかった。
「成瀬会長」
なんでもないことのように、水城がその名前を口にする。
「だって、あの人はオメガなんでしょう」
悪気のひとかけらもない笑顔が告げた内容に、周囲からざわめきが上がる。ちらほらと視線を送るだけだった生徒たちの足も完全に止まっていた。
「僕もそうだから、人ごとに思えなくて。会長は僕なんかにそんなふうに思われたくないだろうけど。でも、数少ない仲間だから」
「ちょ、……なに言ってんの、ハルちゃん。そもそも、こんなところでする話じゃないでしょ」
「え? どうして?」
「どうしてって……」
「だって、恥ずかしいことでも隠すような話でもないでしょう。それとも荻原くんは、僕のことも恥ずかしいって思ってるのかな。だったら、ちょっと悲しいけど」
言葉どおりのしゅんとした表情を見せた水城に、「そういうわけじゃ」と慌てた顔で荻原が宥めている。そうして、周囲から突き刺さる興味本位の視線と、ささやき。すべてがどうしようもなく滑稽だった。
薄い膜一枚隔てたところから世界を見つめていることしかできないような感覚を覚えて、行人はもう一度強く手を握りしめた。指の先が冷たい。
余計な介入はすべきではない。だって、それでうまくいくとは限らないから。そもそもとして、あの人は絶対に望まないから。悪化させるだけになるかもしれないから。
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