509 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1-7
でも。
――でも。
なんで、よりにもよって、こいつに、好き勝手に踏み荒らされなければならないのか。そんなこと、許されるはずがないのに。
許していいわけがないのに。
誰かの手が、ぽんと肩に触れた。そのぬくもりに現実に一挙に引き戻される。
「成瀬さ……」
呼びかけが途切れる。振り仰いだ先で目が合った彼がほほえんだ。何度も見てきた、行人を安心させてくれる、優しい、けれど、強い笑み。
ざわつく周囲も、好奇の視線も、なにもかも気にしていないそぶりで、成瀬が口を開く。
「俺がオメガ、か」
淡々とした静かな声だったのにもかかわらず、その声は騒音を打ち消すのに十分な力を持っていた。静まり返った生徒たちをぐるりと見渡した彼の視線が、水城のところで止まる。
「随分と楽しそうに話してたみたいだけど、俺を待ってたんだって?」
「成瀬会長」
にこりとうれしそうに水城はほほえんで応えた。
「よかった。お元気そうで。心配してたんです」
「心配? なにを」
「昨日のことです。僕もオメガだから、人ごとにはとても思えなくて。だから」
黙って話を聞いていた成瀬が、そこでふっと小さく笑った。
ともだちにシェアしよう!