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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1-8

「きみにそれを吹き込んだの、誰だか当てようか」 「……え?」 「本尾だよね」  成瀬の声も態度もいっさい変わっていないのに、行人は必要以上にどきりとしてしまった。  昨日、向原は、見られている、とたしかに言った。半ば強引に茅野に追い出されてしまったから詳しくは聞けなかったけれど。 「うちに来て半年も経っていないきみが知らないのも無理はないけど、そういう噂は、ここでは昔から好き勝手に流れてるんだ。あまり趣味がいいとは思わないけど。――それと」  そこで、一度、成瀬は言葉を切った。 「きみの同好会が風紀とどう結託しようが、一線を超えない限り口を出す気はない。でもね、きみじゃ無理だ」 「どういうことですか」 「痛い目を見るのはきみになると忠告してる。前にも言ったと思うんだけど、自分はアルファを操れると過信しないほうがいい」  水城は口元に笑みを湛えたまま、じっと成瀬を見つめていた。  行人は、アルファを操れるなんて考えたこともなかった。関わりになりたくないとは思っていたけれど。大半のオメガが同じ思いのはずだ。けれど、水城はその大半の中に属しない。  ――僕は、オメガです。  それまでアルファもオメガも、そういった第二の性は関係がないとされていた陵学園の入学式で、水城は宣誓することを選んだ。  それは――。 「あいつは、きみの言うことならなんでも聞く、忠実なきみのアルファと違う」

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