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パーフェクト・ワールド・レインⅢ-2

「どうかって?」 「俺の機嫌を窺った方が良いようなことでも起きたのか」 「性格悪い」  思わず出たそれにも、向原は特に変わらず目元を笑ませただけで。 「おまえに言われたくはないけどな」 「うん」  篠原が心配するほど、怒っていたわけでもないらしい。 「俺もそう思う」  ――そもそもとして、何をそんなに、と思わなくもなかったのだが。  まぁ、良いか、と笑う。 「ついでに言うと、向原の機嫌を窺いたかったわけではなくて、純粋に言いたいことがあって」 「言いたいこと?」 「何もしなくて良いよ」  怪訝そうな声にも構わず、一息に告げる。 「何もしなくて、良い」  主語も何もなかったけれど、伝わっていることは間違いない。じっと見降ろしてくる瞳に冷たい色が走って、あぁ、アルファだなと思った。人を支配することにもコントロールすることにも慣れている、それ。 「それがどういう意味か分かって言ってんのか」  それなのに、その感情を抑えようとしているのが分かるから、嫌いになれない。アルファなんて信用できないと思い続けるには、少し近くに居過ぎた。

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