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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 2-17

 ただ、折れるわけにはいかない、と言っただけだ。  自分はここで折れるわけにはいかない。折れたら、自分は自分でなくなってしまう。アルファではない自分など、なによりも自分が受け入れられない。  だから自分はアルファとしてここを卒業しなければならない。  自己本位でしかない主張に、向原というよりは一緒に聞いていた茅野のほうが呆れていたし、なんなら向原が怒り出さないか気にしていたような気がする。  結果だけで言えば、向原は呆れ切った顔で失笑しただけだった。それだけ。  つまるところ、それ以上でもそれ以下でもないのだろうと成瀬は解釈している。自分に腹を立てていることは間違いがないと思っているし、許されてもいないだろうと思っている。  それでも、断られないだろうと知っていた。  ――俺が、おまえを好きだから?  ――おまえ、なんだかんだ言って高括ってるよな、俺がなにもしないって。  あぁ、思ってるよ。誰にともなく心のうちで呟く。打算ばかりで生きている俺と違って、おまえは優しいから。それで、俺は、それにずっと甘えてた。  次に響いた声は、やはり昨日聞いたばかりのものだった。自分が言わせたもの。  ――アルファだったらよかったのにな、おまえも。  本当にな、と心の底から思う。本当にそうだったらよかったのに。  そうだったら。  こんな歪な関係になることも、苦しむことも、きっとなかった。  そうで、ありたかった。

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