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パーフェクト・ワールド・レインⅢ-6
やりたいようにやってやれたことなんて、どのくらいあっただろう、とふと思った。
自分がやってきたことは、「アルファである成瀬祥平なら選んだだろう」ことだ。周囲が思う「自分」であるために、やってきたことばかりだ。
それも見透かしているくせに、向原は背を押すようなことを言う。
気が付いていない振りをする。
何もかも、知っているくせに。
「なんで、おまえはそうやって優しくするの」
どこか自嘲を含んだそれは、制御できないままぽろりと零れ落ちてしまっていて。
「ごめん。なんでも……」
ない、と。なかったことにしようしたのを遮って、声がした。
「なんでだと思う?」
顔を上げようとして、止める。視線を向けたら、終わってしまうような気がした。なにが、とも言いたくないなにかが。
だから、できるだけ「いつも通り」の声を出す。視線を手元に落としたまま。いつも通りを取り繕うのは、慣れていたはずで。日常の一部ですらあったはずで。
それなのに、この瞬間、上手くできている自信がまったくなかった。
「友達、だからな」
篠原に言われるまでもなく、ひどく上滑りした声だと思った。向原は、何も言わなかった。
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