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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 4-3

「皓太、皓太。まぁ、あんまり気にすんなって」  言いくるめられているのを見かねたのか、篠原が苦笑気味に割って入った。篠原のことだ。どうせ自分がいないあいだに、さんざんに発破をかけていたのだろうと向原は踏んでいる。  篠原は篠原で、あの一年の台頭に良い顔はしていなかったのだ。無理やり潰すような真似は大人げがないと思ってもいたようだったけれど。 「気にするなって。でも、じゃあ、俺の補選ってなんだったんですか、本当に」 「あー……、ここ、もともと正規の人数にぜんぜん足りてねぇから」  だから、と言い訳がましい説明が続く。 「どっかで補選はしたかったんだよ。成瀬と向原のえり好みが激しいからこうなってたってだけで。俺はずっと迷惑してたの。何回言ってもこいつら聞かなかったし」 「じゃあ、なんで、俺が副会長職……」 「ほら、副会長ってふたりまで置けるから。中等部もそうだったんじゃねぇの?」 「いや、……それは、まぁ、そうだったけど」  心配して損した、だとか、騙された気しかしない、だとか、ぐずぐずと訴えている声を無視し切れなかったらしい。篠原に相手を任せて事務仕事を再開していた成瀬は、珍しく柔らかい顔をしていた。  ――甘いよな、本当。  嫌になるくらい、「子ども」に、――自分が守るべきだと思ったものに対して、甘い。それも、本当にいまさらで、昔からのことではあるけれど。  自分からは完全に話が離れたのをいいことに、今度こそ外に出る。人気のない廊下は、梅雨特有の重い湿度をはらんでいた。

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