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パーフェクト・ワールド・レインⅢ-15
風紀委員の背中が去って行くのと同じくして、成瀬も「遅れるなよ」と一声かける。気味の悪いほど、水城は何もしなかった。ただ、あの顔で寂しそうに微笑んでみせただけ。
行こう、と促す声に応じてその小さな身体も消える。その背を見送ってから、白い顔色のままの行人に声をかけた。
「行人」
「あ……、成瀬さん。その、すみませんでした。ご迷惑かけて」
「全然」
いつもを取り繕えていない顔に笑いかけて、僅かに声を潜める。
「あとで良かったら、部屋においで」
「え……?」
「消灯までに」
半分以上、命令に聞こえているだろうなと分かっていながら、言い足す。
「茅野には言わないから」
数瞬の躊躇いのあと、頷いた行人にも早く戻るように促して、離れた位置で見守っていたらしい幼馴染みにも「大丈夫」と視線を送る。
大丈夫。ただ少し、――そうだな、と思った。
ただ少し、面倒なことになっているかもしれないな、と疑いながら。
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