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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-2
「……まぁ、本当、慣れてるつもりで油断してたら、痛い目見たんだけどね」
「え? なに」
「ううん、なんでもない」
よく聞こえなかったから聞き返しただけだったのだが、曖昧に首を横に振られてしまった。
「とりあえず、そういうわけだから、本当おまえはなにも心配しなくていいよ。俺はね、すごくして損した気分」
なんだ、して損したって、とは思ったものの、自分を安心させてくれようとしているのはわかったので、うん、と頷く。
いつもの調子に戻っているのがわかって、行人はもうひとつ聞こうかどうしようか悩んでいたことを口にした。
「最近どうなの、水城」
「あー……、うん。水城ね。あいかわらずと言えば、あいかわらずなんだけど、なんとなくちょっと苛々してるように見えるときもあるかな」
「苛々……」
行人の頭の中の水城という同級生は、いつ見ても同じ顔でほほえんでいるイメージしかない。それなのに。いまひとつ想像できなくて、行人は思わず繰り返した。
――いや、でも、このあいだは、「苛々」としか表現できない顔してたか。
成瀬に食ってかかっていたときのことだ。水城があんなふうな態度を取るとまでは思っていなかったし、実際、あの場面を見ていない生徒は一様に「信じられない」だとか、「会長派の生徒が流した誇張された噂」だと言い張っている。そう言いたくなる気持ちもわからなくはない、と行人でさえ思ってしまうくらいだ。
もっとも、で言うと、成瀬があんな態度を取るとも思っていなかったのだけれど。
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