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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-9

 以前にも、高藤に似たようなことは何度も言われた。その度に、「そりゃ、おまえはそうだよな」と高藤の持つアルファの余裕のようなものに反発していたけれど。  落ち着いて考えれば、きれいごとと言われようとも本当にそのとおりだとわかるし、自分ではなく「オメガ」だからちやほやされているというのは、すごく悲しいことではないかと思ってしまったのだ。  そんなふうに思われることを、水城は絶対によしとしないとわかっているけれど、なんだか昔ほどカチンと来なくなってしまった。 「でも、このあいだの会長はたしかにかっこよかったもんね。証明しようと思えば簡単にできるのに、オメガじゃないともオメガだとも言わなかったんだから」 「証明しようと思えば、って?」 「え? だって、会長のID、アルファだよ? それ見せたら一発じゃん」 「IDが?」  その言葉に行人は思わず問い返してしまった。IDは公的な証明書だ。偽造なんてできるはずがない。 「うん。前に俺、たまたまなんだけど見たことがあって。あたりまえにアルファだったけど、それがどうかした?」  きょとんとした顔に向かって、ぎこちなく首を振る。「なんでもない」と言うよりも「そうだよな」とする反応のほうが正しい気がして後者を選ぶ。 「そう、だよな」 「そりゃ、まぁ、そうでしょ。というか、そうなんだし。それなのに、あんな噂が出るんだから、本当に最近のこの学園は魔窟だね。変な噂ばっかりだ」  そうだな、ともう一度同じ相槌を繰り返す。そうとしか言えなかった。行人のIDに記載されている第二性は当然のことながら、オメガだ。オメガだから抑制剤を処方されている、ということでもある。  成瀬はたしかに抑制剤を持っている。それもたしかだ。  ――でも、じゃあ、それって、どういう……。 「あ、榛名。予鈴鳴ってる」  急がなきゃ、と背を押されて、行人は疑問をわきに置いて歩く速度を速めた。

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