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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-10
――古い考え方というか、お堅いというか。まぁ、あのお母さんを見たらちょっとはイメージつくかもしれないけど。なんというか、おうち全体があんな感じなんだよね。アルファ至上主義というか。
高藤に聞いた話を、行人は覚えている。この学園にいると感覚は狂いそうになるが、成瀬の家はいわゆる「いい家」だ。けれど、だからと言って、偽装はさすがに――とまで考えたところで、いや、あの母親ならやりそうな気がする、と思ってしまって、ぶんぶんと首を振る。
さすがに人の親を――それも、メディアを通してしか知らない言動で「自分の息子をアルファにするためだったら軽犯罪くらい犯しそうだ」と思うのは失礼すぎる。
高藤のげんなりとしていた表情から察するに、実際の姿とあまり変わらないのかもしれないが。
――これ飲み切ったら、部屋に戻ろ。
食堂の壁にもたれたまま、手の中の紙コップに視線を落とす。もうそろそろ夜の点呼の時間になる。これ以上考えていても、ろくな方向に進まないような気もするし。
すっかりとぬるくなったコーヒーに口をつけて、行人はほっと息を吐いた。時計の針が自分ひとりしかいない食堂に規則的に響いている。
居合わせていなかったので四谷から聞いた話でしか知らないが、少し前に夜遅くまで集まっていた一年生に、茅野が雷を落としたことがあったらしい。それ以降、夜が早くなったようだ。一年生の談話室の前も通り抜けてきたが、騒いでいるような寮生はひとりもいなかった。
きっといい話で盛り上がっていたわけではないのだろう、と想像がついたから、静かなことにほっとしてもいた。
いろんな考え方をする人がいるのはおかしなことではないが、それでもやはり行人は、自分の好きな上級生たちを批判されたくはない。
批判されるようなことを彼らがしているとも思えないから、なおさら。
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