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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-13

「なんで俺だけって言ったら、直近で目に余ってるのがおまえのほうだからだって。俺のこと暴君暴君って言うけど、あいつも大概だと思うんだけどね、本当」  そう言って、成瀬が苦笑気味に続ける。思えば、彼とこんなふうにふたりで話すのはひさしぶりかもしれなかった。  もしかすると、だから気を使ってどうでもいいような話をしてくれているのかもしれない。思い至ったのは、成瀬がこういったことを話すことはそう多くなかったからだ。  彼は口数が少ないというわけではないけれど、自分のことはほとんどといっていいほど話さない。 「なんならまたおまえらふたりを同室に戻してやってもいいが、流血沙汰を起こされてもたまらんからなって。まったく信用がない」 「流血沙汰って、成瀬さん向原先輩と喧嘩したりするんですか?」 「ん? しないよ」  つい尋ねてしまったのだが、返ってきたのはあっさりとした否定だった。まったくしないってことはないだろ、と即座に思ってしまったのは、この一月ほどの胃の痛かった記憶があるからだったけれど。  ……いや、でも、手が出るような喧嘩はしないって意味なら、それはそれで、まぁ、 「というか、あいつはね、普段怒らないぶん、したら駄目な人間」 「駄目な人間?」 「うん。喧嘩に強い人間ってね、二種類いると俺は思うんだけど。武術の心得的な意味で人体を抑えられるから強い人種と、相手に暴力をふるうことに躊躇がないから強い人種。で、前者は話せばわかるけど後者はそうはいかない。だから無理に絡まないに越したことはない」

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