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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-15
「行人」
その声に、知らず落としていた視線を上げる。この学園の中で、彼だけが使う呼び名。はじめて呼ばれたときから、行人の特別だった。
「俺ね、行人が安心できる場所をつくりたかったんだよ。こう見えても」
「……知ってます」
たぶん、きっと、想像でしかないけれど、成瀬は自分のためにこの学園をつくり変えたのではないのだと思う。じゃあ、誰のためだったのかというのは行人にはわからないし、今成瀬が言ったように行人のためだけだったと思うほど自惚れてはいない。けれど、ただ思うのだ。
この人は、自分のためだけであったならば、ここまでの労力は割かないだろうな、と。ずっと見てきたのだ。そういう人だということくらいはわかるつもりでいる。
うん、と見慣れたいつもの顔で成瀬は頷いた。
「でも、行人はもう大丈夫だな。どんな場所でも、皓太がいる」
また振られたみたいになってるな、ともたしかに思ったのに、あのときほどのダメージはなかった。ひとつひとつ手放そうとしているみたいだな、とも思ってしまったし、いくら成瀬がそう思ったところで、高藤が本当に「そう」である確証はないとも思ってしまったけれど。
それでも、結局、行人は「はい」と応じることを選んだ。少しでも安心してもらえるのなら、とやはりここまできても思ってしまったのだ。
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