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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5-16

「行人はもう部屋に戻る?」 「あ、……もうちょっとしてから戻ります」  少しだけ気持ちを整理しておきたくて、そう伝える。予想していたとおりのあっさりとした態度で成瀬はほほえんだ。「わかった」 「おやすみ。引き留めておいて言うのもなんだけど、早く戻らないと怒られるよ」 「あの」  同じようにあっさりと立ち去ろうとした背中を、行人はなぜか引き留めてしまっていた。ひとりになりたいと思ったばかりだったはずなのに。 「どうかした?」  振り向いてくれた瞳のやさしさに押されるようにして、まだ言葉になりきれていない感情を吐き出そうと試みた。  呼べば必ず振り向いてくれる人がいてくれることは、幸せなことなのだと思う。この人にとっては、庇護すべき対象だから、というだけの理由であったとしても。 「あの、成瀬さん」  聞きたいことも、話したいことも、たぶん自分のなかにはたくさん詰まっているのだと思う。今日の昼間、聞いたことだけではない。  言わないほうがいいだろう、とか、聞かないほうがいいのだろう、とか、そのときどきに最善だと思って勝手に埋めてきたものが。

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