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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6-4

「べつに」  すっきりとしない調子のまま、成瀬は否定した。そんなことはしていないし、親の力を借りる気もない。それは本当だ。そもそもとして、こんなことで貸してはくれなかっただろうが。  想像してみたところで、篠原よりももっとあからさまに「弱いほうが悪い」とほほえむ姿しか思い浮かばなかった。 「してねぇよ、俺は。なにも」 「だから、あいつなんだろ」  呆れた声音で言い切って、篠原が首を振った。なんとも言えない、苦い顔で。 「あいつさ、なんていうか、あからさまだから」  なにがどうあからさま、なのかは、篠原は言わなかった。 「その、なんだ。おまえがそれでいいとか、それがうれしいっていうタイプなら、なんの問題もないんだろうけど」 「……」 「そうじゃないなら、ちゃんと話したほうがいいんじゃねぇの? 今後のために」 「べつに」  と成瀬は子どもじみた否定を繰り返した。折れるつもりはなかったけれど、それをうまく説明できそうになかったのだ。  どう言葉を費やしても理解できないだろうとも、思ってはいたけれど。 「喧嘩したつもりは、俺にはないけど。でも、そのうちもとに戻ると思うよ」 「……あのな」 「向原だって、そこまで長引かせたくもないだろ」  同じ部屋で生活をともにしているのだ。揉めたくないのはお互い様だろう。そうやって今まではうまくやっていたつもりなのに。  ――だから、まぁ、よっぽど気に入らなかったんだろうな。  あの態度を見ていれば、一目瞭然だ。けれど、同時に、自分でも意外なほど腹が立ってもいた。折れる気になれないし、向原が望むような折衷案を出す気にもなれない。

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