現に、向原はなにも変わっていないように、成瀬には見える。昔と比べて、という話ではない。この数ヶ月のあいだの話だ。もともとあった齟齬が表面化したか、そうでないかだけの違いで、それ以外はさして変わっていない。 　もし、大きくなにかが変わったとしたら、そのタイミングはあのときだったのかもしれない。 　本当に今になって思えば、の昔の話だ。けれど、今だからこそ、あの当時に篠原が言っていたことも少しはわかるようになった。 　そういうふうな考えもあるなと思えるようになったというだけで、たとえあのときに戻ったとしても自分は違う選択をすることは絶対にないだろうから、意味のない話ではあるのだが。 　あのときも、結局は、自分が思っていたとおりで、なし崩しに「喧嘩」は終息した。その前と後とでは決定的になにかが違ってはいたけれど、なにもなかったかのようにもなった。 　その誤魔化しがきかなくなっただけだと思えば、今の状態もべつにそうおかしいことではないのかもしれない。 　――それなのに、嫌だって思う瞬間があるって、どれだけわがままだって話だよな。 　それも、かつてから何度も言われたことではあったのだけれど。