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パーフェクト・ワールド・レインⅣ-5

 諦めれば良いのに、成瀬が諦めないから。夢なんて見ないと言うその口で、夢のようなことを唱え続け、手の中で叶え続けるから。  ――だから、俺は。  その姿を見ていたい、と思っていた時期が、確かにあった。 「茅野の言う通りだな」  阿る必要性も感じられず、向原は淡々と口を開いた。 「おまえが特に何もする気がないと言うなら、俺はべつにそれはそれで良いが」  半分は本心で、残り半分はそうではなかった。 「ただ、食われる覚悟はしておけよ」  成瀬が、と言うよりかは、成瀬の可愛がっている一年が。口にはしなかったが、確実に伝わっているはずだ。  成瀬がふっと目を逸らした。「分かってる」 「成瀬―、おまえがその調子だとどうにもならんだろ」  なんだかんだで成瀬をトップに据え置いておきたい男が、取成しにかかっている。それを横目に向原は隠さない溜息を吐いた。  とどのつまり、決起集会だ。神輿のやる気はないようだが。  ……気に喰わない。  気に喰わないのは、会合が、ではない。  昔は、この男が眼を逸らすようなことなんて、滅多となかったのに。

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