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パーフェクト・ワールド・レインⅣ-6

 ――単刀直入にお願いがあります。  つい先日のことだ。向原を人気のないところにわざわざ呼び出した少年は、そう言い募った。  この瞬間の為に抑制剤の服用を控えたのか、それとも元来の性質なのか。少年の身体からは匂い立つようなオメガのフェロモンがした。  今にも泣きだしそうな顔で、「あなたが好きなんです」と囁く。本気で落としに来ていると言うよりかは、感触を試している風だった。 「悪いけど」  自分にしては穏やかな切り口で断りを入れた。叩き潰すのは簡単と言えば簡単だったが、このオメガに掻き回された後に多少の興味があった。 「この学園で、つがいを見つけようとは思ってない」 「会長がいるからですか?」  どこか挑む調子のそれに、向原は小さく笑って見せた。どうとでも好きなように解釈すればいい。 「僕の寮の三年生の方たちも言っていました。あなたと会長は中等部のころからずっと一緒にいるって。まるで」  その先の言葉を、試すように少年は呑んだ。さて、どうした方が面白いだろうか、と思案を巡らせたのは一瞬だ。秘密を囁くように声を落とす。 「まるで、つがいみたいだって?」  少年の瞳が大きく瞬く。 「そうなんですか?」  いかにもわざとらしく。信じられないと言わんばかりの声が続く。 「あの人は僕と一緒なんですか」  ほら見ろ、とどこかでかつての自分が笑っていた。四六時中、誰かが傍に居るこの箱庭の中で、隠し通せる秘密などあるはずがない。 「おまえはどう思ってるんだ?」  試すように。あるいは言葉を引き出すように、毒を撒く。少年が、迷うようなそぶりを見せて、それからゆっくりと口を開いた。言葉が音になる。  あの約束は、きっと果たされない。  果たされないくらいなら、自分が壊すべきだ。この六年。抑えて抑えてやり過ごしてきた衝動が、鎌首をもたげていた。

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