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パーフェクト・ワールド・レインⅣ-8

「本尾には釘は刺した」 「それ、絶対、火に油だろ」  知っている、と喉の奥で笑う。何を言ったところで、あの男は喜ぶだけだ。 「おまえはさ、昔から……、まぁ、昔からと言うほど、俺もおまえのこと知ってるわけじゃないけどさ」 「なんだよ、まだるっこしいな」 「おまえは陵に入る前とそれ以降で確実に変わった」 「そうか?」 「成瀬に逢って、めちゃくちゃ変わった」  ――そうだろうな、と思うことはできる。  けれど、それが良かったのかどうかは分からない。 「こういう言い方すると、語弊がある気もするけど、おまえは成瀬のこと大事にしてたじゃん。これ見よがしに」 「まぁ、そうかもな」 「おまえにもそう言う感情があるんだなって、勝手に安心もしてた」  それは本当に勝手だな、と思ったけれど、面倒だったので口にはしなかった。伝わってはいるかもしれないが。 「でも、最近のおまえは、昔のおまえに戻ったみたいに思えるときがある」  昔。成瀬に出逢う前の自分。どうだろうな、と思いながら紫煙を吐き出す。視界の先に広がるのは、平和そうな放課後だ。少なくとも、声が聞こえない分には。 「まぁ、戻ったとしても、あの頃よりは成長してるんじゃね?」  もう、六年近い月日が経っているのだ。ここに入って。篠原の言うように多少何かが変わったとして。 「向原」 「人間の本質なんざ、早々変わらねぇよ」

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