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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6-12
教室での一件を思い出したのか、茅野が嫌そうに釘を差してくる。
「あんまり過剰にやると、さすがにばれるぞ」
「うん。でも、もう引けないだろ、向こうが」
こちらの思惑に気がついていたとしても、引けない理由のほうが大きくなっていたら、どうにもならない。
「恋愛って怖いよな。というか、人を好きだって思い込んでる熱量が怖いよ。それで、まともな判断ができなくなる」
恋をしてはいけないよ、なんて台詞をはじめて聞いたとき、そんなものをするわけがないと思った。自分がアルファであるために一番不要な感情だとも思った。
そうして、今もそう思っている。あの人の言ったことは、間違ってはいない。誰かを好きだとする思いが、感情のコントロールを難しくさせる。フェロモンのバランスも崩しかねない。だから、悪だ。
わかっている。口元だけで成瀬は笑った。
「水城が、いろんなところで誘惑してくれてて、よかった」
「俺は、おまえのそのドライすぎる恋愛観のほうがよほど恐ろしいんだが」
それ以上は言っても意味がないと思ったのか、溜息ひとつで茅野が話を変えた。
「おまえ、結局、向原と話してないだろう」
「なんで? 知ってるだろ、話したよ」
「おまえが一方的にな」
「でも、茅野も知ってると思うけど、あいつは納得しないことはしないだろ。だから、納得してるってことだと思うけど」
最低限は、と言って、ほほえむ。数日前に、篠原にも言ったことだ。
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