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パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 6-14

「いや、まぁ、そうだな。あいつ、嘘きらいだから」 「きらい?」  誠実だなんだと言っていたわりには、意外そうな声だった。そうだよ、と変わらない調子で成瀬は請け負った。  向原が、嘘がない人間だというわけではない。あの男は必要とあれば平然と嘘を吐くし、特別な罪悪感も抱かないだろう。嘘を吐かれたとしても、騙されるほうが悪いと思うのがせいぜいだろうと知っている。――けれど。 「昔からあいつが怒るのは、俺が本音を言わないときだ」  より正確に言うと、俺が自分自身よりも自分のプライドを優先しているときかもしれない。  あるいは、俺が、あいつから向けられる本気を、正面から受け止めようとしないとき。  俺が嘘だらけの人間だということを知っているはずなのに、なぜか向原は俺にまっすぐであることを期待しているような気がする。 「そこまでわかっていて、なんで向き合ってやらないんだ、おまえは」  あいつの言い分のほうがよっぽど真っ当に聞こえるんだが、というどこか疲れたような台詞に、できないからだよ、と言う代わりに、成瀬は笑った。  目を逸らしてきたのは、いつも自分だ。向原は逸らさない。もうずっと昔は、同じように見つめ返すことができていた。けれど、もう無理だ。できない。  だから、たぶん、俺はずっと捨ててほしかった。諦めて、捨ててほしかった。  望むものには、どうやったってなれない。そう俺自身が一番わかっていたから。

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